
洗練されたグルーヴと置き場のない熱

心地よいデジタルサウンドだ。2015年以降の音楽の潮流をしっかりと掴んだ楽曲に仕上がっている。音の粒は細かく磨かれ、どんな環境で聴いても破綻しない質感がある。 4つ打ちのダンスビートを基調としつつも、古臭いアレンジに陥らない作りになっている。ディスコからハウス、EDMへと半世紀近く使い倒されてきたフォーマットだけに、少し手癖に寄るだけで懐メロに転落しかねないが、本作はその罠をうまく避けている。 その奥には、Incognitoをはじめとするアシッドジャズの流れが透けて見える。90年代初頭のロンドンで、ジャズやソウルをクラブの文脈で鳴らし直した、踊れるのに品のある音楽だ。出すぎないピアノはまさにその系譜にあり、主張しすぎないのに抜けば曲が締まらなくなる絶妙な位置で、楽曲を印象的に引き締めている。どこか日本的なメロディ感が残っているのも非常に良い。United Future OrganizationやMondo Grossoが示したように、アシッドジャズのグルーヴと湿り気のある日本的な旋律は相性が良いのだ。 ただ、個人的にこの手の楽曲は「ループ的なサウンド」に感じてしまい、気持ちの盛り上がりをどこに持っていけばいいのかわからなくなる。いや、そもそもそうしたもの自体が不要なのかもしれないが。ハウスはもともと、DJが何時間もかけてフロアの温度を上げていくための「部品」として発展した音楽で、盛り上がりは曲の中ではなくミックスの流れの中にある。とはいえ単体の楽曲として向き合うと、気持ちを預ける場所が見つからないもどかしさは残る。 曲の作りは非常に美しく、素晴らしい。特に、曲の締めに現れるポストコーラスは強く印象に残る。しかし、メインのコーラスよりもそちらのほうが強く、さらに言えば、コーラスに入る前の「Give me an angel ring」の部分でクライマックスが来てしまっている印象がある。本来頂点であるべきサビが、すでに迎えた頂点の余韻のように響いてしまうのだ。この懇願のフレーズがそれだけ強い引力を持っているということでもあるが、構成としては感情がサビより先に着地してしまうねじれを生んでいる。 この手のジャンルは「そういうものだ」と言われればそれまでなのだが……何度も言うが、曲としてはかなり良い出来だと思っている。もしかしたら、もっと尺を長くし、構成の波をつけられると良かったのかもしれない。クラブミュージックには、長いイントロやブレイクで時間をかけて高揚を組み立てる「エクステンデッド・ミックス」の文化がある。引いては寄せる波を何度か経たあとであれば、あのポストコーラスの強さも正しい場所で爆発できたはずだ。 最後に、アレンジ以外で良かった点を挙げるなら、声だ。他の曲と比べて独特な雰囲気があった。人間的、というか、人間が手を加えたデジタルボイスのような作りで、魅力的に感じた。Cherの「Believe」がオートチューンを補正から表現へと変え、Daft Punkがヴォコーダー越しの声に人間味を宿らせたように、生身でも機械でもない中間の声は、かえって感情の居場所をつくる。本作の声もまた、その系譜の上で不思議な温度を帯びている。