浮遊する感情、静かなAORの夜
都会の静けさとモヤがかった湿度を感じる ― 第一印象はこれだった。ニュー淡路というクリエイターの作品には明るさやシンプルさの裏に見え隠れする陰鬱というか哀しみというか、そういったところが特徴的だ。本曲はその良さがしっかり表現されているように思う。シンプルなリズムとアレンジであるがゆえにメロディの良さというのが非常に重要になるのだが、日本人が好みそうな叙情的なメロディがしっかりと組み込まれている。 静かでありジャジーなピアノからスタートした後に、シンプルなドラムが入ってくる。ボーカルは静かで、ソロにはエレピが入ってくる。AORだろう。非常に都会的なサウンドだ。まず思いついたのが Boz Scaggs や Sting の系譜だ。僕はこの手の音楽がかなり好きというのもあり、本曲はかなりハマってしまった。でもメロディはかなり今風にも感じる。Vaundy の 踊り子 に通じるものがあるとも思った。 歌詞の世界観は一貫して「浮遊」だ。ここに自分はいるが、本当にいるのだろうか?いやこの世界自体が本当にあるものなのだろうか?そのような心がどこか遠くから客観的に、そして虚ろに見ているような、そんな心情が描かれているように感じた。「見慣れたはずの孤独がシャープになる」「交差点に置き去りの感情」などスマートだが、強烈に揺れ動く感情を巧みに表現したワードが並ぶ。歌詞にはいろんなパターンがあると思っているが、個人的に一番好きな歌詞のパターンは1つの事象を様々な角度から表現する歌詞だ。本曲「flagile」もただただ1人の人の感情を様々な角度から描いている。主人公はもしかしたら夜の街角でただ立っているだけかもしれない。しかしその人の心のなかに動くものはとても激しく、しかし静かでもある。大きな気持の揺れを歌詞が表現し、静かさを楽曲のアレンジが補完している。「壊れても、綺麗なままで」のフレーズはメロディと言葉が完全に掛け合わさって、リスナーに突き刺してくる一節だ。 めちゃくちゃ良い曲だと思うがゆえに気になるところがある。最後のコーラスの後半が他のコーラスとメロディが変わってしまっているところだ。いや変えるのは構わないのだが、他のコーラスとあわせたうえでのアドリブにしてほしかった。これがあることで消化不良になってしまった感は否めない。これができていれば本当に名曲に入る部類だったと思う。 とはいえ、実に素晴らしい曲に出会えた気分であることに間違いはない。細部への注文がつい出てしまうのも、それだけこの曲が「あと一歩で名曲になる」ポテンシャルを持っているからこそだ。ニュー淡路というクリエイターの次の一手に、いやが応でも期待が高まる。この夜の余韻を、また味わわせてほしい。
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