恋したことのもどかしさ

恋したことのもどかしさ

menxo@PROJECT_HORIZON

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曲紹介

ピアノのイントロが静かに立ち上がるバラード。Aメロはアコースティックギターの爪弾きだけで歌が進み、Bメロからベースとドラムが加わってバンドサウンドへと厚みを増していく。全体を貫くのは、70年代のバラードを思わせる落ち着いた質感。 歌の主人公は、かつて恋した相手の面影が少しずつ輪郭を失っていく時間の中にいる。真夜中のライブ、汗ばむフロア、照れながら語られた音楽の話。手渡されたアルバムと、そこに添えられた解説。再生ボタンを押すたびに指から血が流れる——そんな感覚で、薄れていく記憶と、消えずに残る音楽との距離が描かれていく。 数年後、相手は新しい朝を迎え、別の誰かの小さな手を握って笑っている。その事実を知ったうえで、それでも主人公は再生ボタンを押し続ける。時間が痛みを薄め、記憶を奪っていくなかで、音楽だけがあの日のまま残されている。

投稿: kazumae

レビュー

再生ボタンを押すたび、あの日が蘇る

ちょっと昔話になるが、90~00年代くらいまでは「日本の音楽は洋楽に10年遅れている」なんてことは言われていた。最近は日本の音楽、とりわけ J-POP/J-ROCK と言われているジャンルは、ガラパゴス的に独自の文化を遂げていて、ある種の完成形に向かっているような気もするが、昔は洋楽を追いかけていた図が色濃くあった。ドリカムやB'zなどはオマージュと言うには優しいくらいの追いかけ方(?)をしていたわけだが、実はその他のミュージシャンもかなり洋楽のアレンジやフレーズを取り入れていた。 じゃあその時代の音楽がダメだったかというと、そんなことはないと思う。いやこれはもしかしたら思い出補正もあるかもしれないが、しっかりと日本の音楽の礎になったと思うし、つまり単純に洋楽の真似事をしていただけではなく、確実に日本のテイストを織り込んで織り込んで昇華させていたと思う。そう、歴史を振り返っても日本は海外の良いところを取り込んできたわけだ。音楽だってご多分に漏れず、そういう側面があったと思う。 本曲「恋したことのもどかしさ」は失恋を歌った曲だが、この曲はまさにその血脈が流れていると思う。ピアノでシンプルにスタートするイントロ、Aメロのアコギと歌で始まる世界などは最たるものだろう。「解説入りCDアルバム」の終わり方や「Maybe I'm Amazed 恋することのもどかしさ」というワンフレーズの入れ方などが、まさに「70~80年代の洋楽に憧れた90年代の日本のミュージシャン達」へのトリビュートに感じる。洋楽的なテイストを入れつつ、日本の音楽に昇華した、あの時代のサウンドだ。 NHKのドキュメント72時間のテーマでもある松崎ナオの「川べりの家」がリリースされたのは2006年だが、路線としてはここに近いような気がしている。 後半に掛けてバンドサウンドは厚みを増していく。恋の終わりが「ゴール」なのか「スタート地点」なのかわからないが、確実に言えるのはそこに向かっていること。望む・望まないにかかわらず、時間が背中を押していくような、そんな表現に感じる。このあたりのストーリー展開は、同じくNHKの番組のテーマだが、スガシカオの「Progress」に通じるところがあるように思う。 古いものを取り込み、自分のものに変えていく――それは音楽の歴史であり、失った恋を抱えて前に進む人の姿でもある。聴き終えたあと、ふと自分の「あの日のまま」の一曲を思い出す。そんな静かな余韻を残す一曲だ。

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